04.過去 私は思った。私の存在はいったいどこにあるのだろう?人の記憶になければ、それは最初からないのと同じだった。すぐにその場所からいなくなってしまう私は他人にとって、いつも忘れ去られる過去でしかなかった。*** 「お母さん、ただいま」 玄関から家… 2025-01-30白い月
03.距離 教室の窓から吹く風が、私の前髪を揺らす。3月の風はまだ少し肌寒い。春の訪れはまだもう少し先のようだった。 「はぁ……」 私は何度目かのため息をつく。そして自分の席の机にあるテキストと問題集を見る。またため息をつくと、その机の上に突っ伏した… 2025-01-30白い月
02.復帰 「おー、財前くん。やっと戻ってきてくれたなぁ。さん、ご苦労さん」 財前くんと私がテニスコートに向かうと、顧問の先生が第一声にそう言った。そして私に「ご褒美や」とコケシを渡した。こ、コケシ……?私は思わず目を疑う。よくわからないがそのコケシ… 2025-01-30白い月
01.白い月 どうしてこんな夢を見てしまったんだろう、と思った。あの時、彼とは特に何かあったというわけではなかった。確か時間は夜だった。暗闇の中、目の前には巨大な水槽。そして水槽は青いライトが照らされて、それがとても幻想的に見えたことを思い出す。水槽の中… 2025-01-30白い月