白い月

04.過去

 私は思った。私の存在はいったいどこにあるのだろう?人の記憶になければ、それは最初からないのと同じだった。すぐにその場所からいなくなってしまう私は他人にとって、いつも忘れ去られる過去でしかなかった。*** 「お母さん、ただいま」 玄関から家…

03.距離

 教室の窓から吹く風が、私の前髪を揺らす。3月の風はまだ少し肌寒い。春の訪れはまだもう少し先のようだった。 「はぁ……」 私は何度目かのため息をつく。そして自分の席の机にあるテキストと問題集を見る。またため息をつくと、その机の上に突っ伏した…

02.復帰

 「おー、財前くん。やっと戻ってきてくれたなぁ。さん、ご苦労さん」 財前くんと私がテニスコートに向かうと、顧問の先生が第一声にそう言った。そして私に「ご褒美や」とコケシを渡した。こ、コケシ……?私は思わず目を疑う。よくわからないがそのコケシ…

01.白い月

どうしてこんな夢を見てしまったんだろう、と思った。あの時、彼とは特に何かあったというわけではなかった。確か時間は夜だった。暗闇の中、目の前には巨大な水槽。そして水槽は青いライトが照らされて、それがとても幻想的に見えたことを思い出す。水槽の中…