フェイズ

フェイズ10

 朝練が終わると私は日直だったため、先にひとりで教室へと向かった。 廊下の角を曲がり自分のクラスに入ろうとすると、突然教室内から「ってさ……」と聞こえてきたので、思わず扉の前で足が躊躇する。 「五組のヤツと付き合ってなかったっけ?」 クラス…

フェイズ9

 金曜日の早朝。目覚めてから窓を開けると、初夏の生ぬるい風が肌を撫でていった。今日の日中も気温は高いらしい。テニス部はまた今日も朝練をすることになり、そのために私も早起きすることとなった。 階段を降りていき、朝のテレビ番組を見ながら、キッチ…

フェイズ8

 放課後は日差しがきつくひどい暑さだった。ホームルームが終わると私と謙也くんは一緒に学校を出た。謙也くんと帰るのは久しぶりだったので私はなんだか不思議な気分になった。私が彼氏と付き合い始める以前は毎日のようによく下校していたが、いつの間にか…

フェイズ7

 そのあとのことはもうほとんど覚えていなかった。 二人で部室の外へ出ると雨が降っていた。私は折り畳み傘を家に忘れてきてしまったことを思い出してはっとする。 「傘、忘れたんですか?」 私の様子を見て財前くんは声を掛けた。「そうみたい……」と言…

フェイズ6

 翌日。昨日と同様に暑い日が続いていた。 朝、教室に入ると、数人の生徒がいるなかに川田さんがいた。彼女は自分の席で教科書を広げていた。凛とした居住まいが目を惹いて思わず見惚れてしまう。私は昨日どうしてあのタイミングで彼女のことが頭に浮かんだ…

フェイズ5

 謙也くんが帰ったあと、私は二つのグラスをキッチンで洗いながらひとりで静かに考えていた。 謙也くんの私のことが大切だという言葉がすごく嬉しかった、謙也くんは私にとっても一番大切な友達だと思っていたから。けれど彼の曇ったあの表情が頭にこびりつ…

フェイズ4

 私の家は二階建ての一戸建てだった。 涼んでとは言ったものの家の中には誰もおらず、室内には熱気がこもっていた。私は謙也くんを二階の自室へと案内すると、すぐさまリモコンでクーラーをつけ、設定を『強』にした。「適当に座っててね」と促すが謙也くん…

フェイズ3

 「さん」 その日の休み時間、教室で机に頬杖をついて窓の外を見ていると、ふいに声を掛けられた。見ると、同じクラスの川田さんが私のほうに近づいてきた。 「なあ、さんってテニス部のマネージャーやんな?」 私は「うん」と頷く。私は川田さんとはあま…

フェイズ2

 翌日の昼休み。校舎を行き交う生徒たちのなか、私は緊張しながら彼の教室の前を通った。もしも彼とタイミングよく出会ったら今度は挨拶だけではなくて、何か話してみようと思った。彼と会うのは怖かったが、このままの状態で日々を過ごすのも息苦しく感じ…

フェイズ1

 私と彼が付き合ったのは今から二ヶ月前のことだった。  その日は雨が降っていた。誰もいない渡り廊下に呼び出された私は、そこで告白された。 彼は同じ三年生で、私とは別のクラスだった。彼の存在を知っていたのは背がすごく高くて目立っていたからだ。…